漆黒の兄弟 5話 『玉狛支部』

漆黒の兄弟5話【ワールドトリガー二次創作小説】 漫画

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5話 『玉狛支部』

「僕たちが、ボーダーに…!?」

「そう。玉狛支部で保護しているという形にすれば、本部の人たちも追ってこられないだろ。うちの隊員は近界に行ったことがあるやつも多いし、お前らが向こうの世界出身でも怖がったりしないよ」

心底驚いたという和希と望実に、迅は優しく語り掛ける。

「まぁ、入る入らないは別にして、『ラッド』のこともあるし、一回おためしでおいでよ」

「……」

和希は考える。

これまでは自分たち近界民の敵であるとばかり考えていたボーダーだ。

当然、そんなボーダーの本拠地へ行くことには抵抗がある。

しかし、ちらりと望実を見ると、迅に対してすっかり警戒を解いてしまっているようだ。

少しでも僕らに対する敵意や害意があるのなら、望実のサイドエフェクト『エンパス』に引っ掛かり、望実は心を許すことはないだろう。

つまり、望実が相手を信頼しきっているということは、目の前にいる迅という男は本当に僕達に害をなす気はないのだろうと和希は考えるしかなかった。

「行きたい…、兄さん、だめですか?」

一方、望実は迅の言葉を聞いて、期待で胸を高鳴らせていた。

この人からは、何も悪い感情は伝わってこない。僕達のことを好意的に見てくれていることが伝わってくる。

それに、望実はこれまで、自身が近界民であることを誰にも話せずにいたのだ。

なぜなら、この三門市全体が、近界民のことを悪であると認識していたからである。

だから望実は、自分の故郷や経験を偽らなければならないことが苦痛だったし、街全体が近界民の悪評を言っているといった状況に、内心とても傷ついていた。

だが、迅の言う玉狛支部は、ボーダーでありながら、近界民に好意的であるという。

そんな場所に、行ってみたいと思った。

これまで、祖国でも玄界でも、自分を偽ってきた。

しかし、玉狛支部の人たちにならば、自分を偽らなくても良い。本当の自分を見せることができるのだと思えた。

期待の想いを込めて、兄を見つめる。

和希はしばらく考えた後、小さく息を吐いた。

「わかりました。ボーダーに入るかどうかは決めかねますが、まずは僕らが持つ『ラッド』の情報を提供しましょう。玉狛支部に同行します」

「よかった!玉狛はこっちだ。ついておいで」


兄弟が迅についてしばらく歩いていると、川の中に建物が建っているのが見えた。

「ここが、我らが玉狛支部だ。もう時間も遅いしあまり人はいないけど、何人かはいるから良くしてもらうといい」

和希と望実は、初めて訪れるその場所に、期待と不安とでとても緊張していた。

そんな2人の様子を横目に見ながら、迅は玄関のドアを開ける。

「ただいま~!お客さんだぞ!」

その声に反応して3人を出迎えたのは、玉狛支部の敏腕オペレーターである、宇佐美栞だった。

「迅さん、おかえり!お客さんだね。いいとこのどらやきあるから、準備するね!」

「おっ、気が利くな宇佐美」

宇佐美はドタバタとキッチンへ向かい走っていく。

そして、その後に現れたのは、玉狛第一の万能手、烏丸京介だった。

「迅さん。おかえりなさい。…おっ、望実?和希さんも。お客さんって、その2人すか」

「……!烏丸…!!」

望実は息を飲み、反射的に声を上げた。

ドクンドクンと心臓が高鳴り、冷や汗が流れる。

烏丸は望実の仲の良いクラスメイトであり、大切な友人の1人だ。

そして、これまで望実は烏丸に、自分は近界民であることを隠し通してきた。

ここで自分が近界民であると烏丸に告げることで、これまでの関係性が崩れてしまうのではないか。

そんな恐怖が望実を襲い、望実は顔を俯かせてしまった。

和希は自分の手がギュッと握られ、その手が細かく震えていることに気づき、望実が言いづらいと感じていることを、自分が代わりに言うことを決めた。

弟が傷つくくらいなら、自分が全ての責任を負おう。

そう決意を固めて迅と烏丸を見ると、迅は何かに気づいた様子で、烏丸は望実の様子がおかしいことを心配しているようだった。

悲しげな笑みを浮かべた和希は、真実を話す。

「烏丸くん。これまで隠してきたけど、実は…、僕達は向こうの世界から来た、君たちが言うところの近界民なんだよ」

「……!!」

望実は目をつむり、強い力で和希の手を握りしめ、まるで死刑宣告を受ける前であるかのように、烏丸の言葉を待った。

一方の烏丸は、驚いてはいるが、どこか納得したような様子であった。

親はおらず、兄弟2人暮らし。2年前に突然転校してきたこと。近界民の話題になった時の、居心地の悪そうな表情。そして、兄弟間の異常なほどの繋がりの強さ。これまでも不自然なことはあったのだ。

そういうことかと腑に落ちた烏丸は、和希と望実を気にかけるように言葉を紡ぐ。

「…そうだったんすね。これまで大変だったと思うんすけど、ここでは隠さなくてもいいっすよ。望実、大丈夫か」

烏丸の言葉を聞いても、望実はまだ烏丸と目を合わせられない。

「…ごめん、烏丸。ずっと隠して…、騙してたんだ。僕が、近界民だってこと。こちらの世界を侵略しようとしてるやつらと、同じだってこと!!本当に、ごめんな」

涙を浮かべて謝る望実を見て、烏丸は慌てて駆け寄り、信頼の気持ちを寄せて語り掛けた。

「これまで2人と接してきても、こうして迅さんが支部に連れてきたことを考えても、2人がおれたちの敵じゃないことはわかる。だったら、近界民とかは関係ない。おれはこれからも望実と友達でいたいよ」

ずっと欲しかった言葉に、望実はようやく上を向き、ポロポロと涙をこぼす。

和希はそんな望実の抱きしめて、優しい手つきで涙をぬぐってあげた。

「……よかったね。望実。本当によかった」

僕達が生きてもいい世界が、ちゃんとあったんだ。

ずっと探していた、やっと見つけた自分たちを疎外しない世界に、和希も心底ほっとし、烏丸に心から感謝する。

泣きじゃくる望実を抱きしめていた和希は、迅に目配せをし、迅は少し笑みを浮かべて頷く。

「じゃあ、烏丸くん、少し望実を任せてもいいかな。僕は少し迅さんと話すことがある」

「もちろんっす。たぶん今ごろ宇佐美先輩がお茶とか用意してくれているはずですし」

「京介、頼んだぞ。じゃあ、和希はこっちに来てくれ」

望実と烏丸は客室に、和希と迅は支部長室へ、それぞれ向かった。


「失礼します。ボス、近界民の織本和希くんを連れてきました」

「おう、お疲れ」

迅と共に支部長室のドアを叩き、入室すると、眼鏡をかけた男性が中で座っていた。

椅子に腰かけながら気さくに声をかける男性は、ボーダー創設メンバーの1人であり、玉狛支部の支部長を務める林藤匠。

「はじめまして。おれは林藤匠。玉狛支部の支部長をしている」

(この人が、玉狛支部のリーダー…!)

林藤と相対した和希は、その仕草や雰囲気、佇まいや言葉のトーンなどから、人物像を特定しようとする。

この人物は、信頼に値するのかどうか。この人を信じても良いのだろうか。

言葉を交わしながら、林藤匠という人物を分析する。

「はじめまして。織本和希と申します。この度は、お招きくださりありがとうございます」

「そんなにかしこまらなくてもいいぞ。玉狛支部は、近界民だからってお前たちを捕まえたりしないから、安心してくれ」

林藤の発言、その際の目線、挙動。全てを観察して、今の発言が本心からのものであると和希は判断する。

自分の観察によるプロファイリングは、望実のサイドエフェクトほどの正確性はない。

あくまでも、心理学などに基づく統計と、経験則によるものだ。

しかし、先ほどの迅や烏丸、宇佐美の態度なども勘案して、林藤ひいては玉狛支部全体を信用しても良いと判断する。

そして和希は、表情をほころばせて、愛想よく対応する。

「だが、たしか2人って言ってなかったか?」

「はい。弟の望実と一緒にここに来ました。弟は烏丸くん達と一緒におります」

「そうか。それならよかった」

和希が警戒を解いた様子を見て、林藤は本題に入る。

「さっそくだが、イレギュラー門の原因について、話してくれるか?」

「はい。こちらの『ラッド』というトリオン兵が、その原因です。これは偵察用のトリオン兵でー」

和希は袋の中に入った『ラッド』を見せながら、よどみなく説明していく。

「…なるほどな。情報提供、感謝する」

「…僕達は、ボーダー本部に正体を知られるわけにはいかない。『ラッド』を退治することが、できません。だから、この街を守るために、あなた方に『ラッド』掃討をお願いしたい」

「もちろんだ。原因がわかった以上、ボーダーが責任もって対処しよう」

その言葉を聞いて和希はホッと息を吐いた。

だが、和希の緊張がゆるんだのもつかの間。

それまで黙って話を聞いていた迅が、真剣な瞳で和希に声をかける。

「あと、1つ話さなくてはいけないことがあるんだけどーー、」

「何でしょうか」

その深刻な様子に、和希も真剣な瞳で先を促す。

「お前たち2人、そのうち何者かに襲われる。かなり強いやつらに、負けて命を落とす未来が視えた」

「え……!?」

迅が視たのは、枝分かれする未来のうちの1つ。

しかし、その内容は、看過できないことであった。

「明確にはわからないんだけど、夜に一緒に歩いている2人を、黒い戦闘服をまとった部隊が攻撃しているイメージが視えたんだ。おそらく、相手はボーダーの部隊ではない」

ボーダーの部隊ではない何者かが、自分たちを襲撃する可能性。

それは、1つしかない。

兄弟が裏切って逃げてきた、祖国クロヴィの部隊に、遂に見つかってしまったのだ。

「お前は、そいつらが何者なのか、見当はついているみたいだな」

「…はい。それはおそらく、僕達の祖国であるクロヴィという国の部隊でしょう」

「お前たちの故郷の国が、お前たちを攻撃するのか?」

「そうですね。それを説明するためには、話さなければならないことがあります。僕達がどうしてこちらの世界に来たのか」

和希は過去を、打ち明けることを決めた。

「僕と望実の過去を、聞いてくださいますか」

林藤と迅が真摯に頷き、和希は話し始める。

暗い空の下、玉狛支部の明かりだけが、まぶしく光っていた。


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