漆黒の兄弟 31話 『影浦雅人』

漆黒の兄弟31話 ワールドトリガー二次創作小説 漫画

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31話 『影浦雅人

ある平日の昼過ぎ、和希ら3年生は体育の授業のため、ジャージに着替えて校庭に出ていた。

三門市立第一高校では、体育の授業は3クラス合同で行われ、いくつかの種目から好きなものを選ぶ形式で行われる。

和希は、隣のクラスの影浦と共に、サッカーの練習に取り組んでいた。

ちなみに、和希がよくつるんでいる北添や王子は、サッカーではなくテニスを選んだようだ。

「よっ、ほっ!」

「うめーな、和希」

今は2人1組でリフティングの練習をしている時間だ。のんびりと話しながら、交互にボールを蹴っていく。

「最近ランク戦はどうなんだ?もうB級上がれそうか?」

「いやー、さすがにそんなはやくは無理だよー。まだ2500いかないくらいだし」

「入隊して2週間で2500いったらなかなかじゃねーの。入隊式で暴れてた玉狛の白いチビはどうなった?」

「遊真はホントにすごいよー。ほぼ負けなしで、もう3000いったんだって」

「まじか」

ちなみに、和希は足の怪我のため常時トリオン体で生活をしているが、遊真のような馬鹿力が出ないように、性能を抑えたトリガーを使っているため、友人と不自由なくスポーツをすることができるのだ。

「そーいやー、今度の大規模侵攻の話は、C級も聞いてんのか?」

「うん。なんか、避難や救助の時にはトリガー使っても良いってことになったみたい。避難誘導とかはC級に任せて、カゲたちは思い切り戦えるね」

「頭の固い上層部が、よくそんなこと言いだしたもんだ」

「あはは」

パスやシュートなどの基礎練習が終わると、3チームに分かれての試合が始まった。

和希と影浦の所属するCチームは、まずはAチーム対Bチームの試合を観戦することとなった。

長袖のジャージを着込みながら、寒い寒いと言ってベンチに座りこむと、ちょうど影浦と同じクラスの村上鋼が無双しているのが見えた。

「うわー、鋼くんやっぱエゲツな!あれ将来スポーツ選手とか目指せるんじゃないの?」

「あー…、鋼はサイドエフェクトがあんだよ。『強化睡眠記憶』っつーな」

「えっ、サイドエフェクト?」

「あぁ、異常に物覚えが速いんだと。それを活かした積み重ねで、ボーダーでもトップクラスの攻撃手だ」

「へぇーっ」

目の前を走っていく村上は、特別に足が速いだとか、パワーが飛びぬけているとかいうわけではない。

ただ、ドリブルの技術、パスの技術、フェイントの技術、ゴール精度。それらの能力がずば抜けて高いのだ。

「なるほどねー。確かにそんな感じの動きしてる。でも、自分で全部やっちゃうんじゃなくて、味方にちゃんとパスして、美味しいところは譲ってあげてるんだ。きっと優しいんだね、鋼くん」

「んな優しさ、戦闘じゃ何の役にも立たねーよ。ランク戦でも、隊長庇って落ちるとかザラだぜ。あいつがちゃんと力出したら、もっと上行けると思うんだがな」

かなり辛口な評価のように思えるが、それは影浦なりの心配の表れなのだろう。それだけ村上の技術を評価しているからこそ、もったいないと感じているのだ。

すると、思い出したように和希は影浦にひとつ尋ねる。

「ねぇ、カゲのサイドエフェクトってさ、望実と同じで相手の心がわかるんだよね。じゃあ、今僕が何を考えてるのかとか、わかったりするの?」

「んな都合のいい能力じゃねーよ!相手が俺にどんな感情を向けてるか、刺さり方でわかるだけだ。お前の弟みてーに、相手の感情や思考を事細かにわかるわけじゃねー」

「へぇー。じゃあ、望実の能力とだいぶ違いそうだね。感情が刺さるってことは、不意打ちとかでも気づけるでしょ」

「あぁ、そういう意味じゃあ俺のクソ能力は役に立つが、無い方が数段マシだぜ」

なるほど、影浦のサイドエフェクト『感情受信体質』について、ある程度は把握することができた。

ひとことで言えば、望実は狭く深く、影浦は広く浅く、感情を読み取ることができる能力なのだろう。

望実は、1人の相手の深い心情や思考まで読み取ることができるが、それには意識を集中させる必要がある。そのため、複数人が相手だったり、意識の外の相手には、感情を読み取るサイドエフェクトは効果が半減してしまう。

それに対して、影浦のサイドエフェクトは、相手の深い心情や思考を読み取ることはできないが、自分に対して向けられている感情であれば、全て何かの刺激として受け取ることができるのだろう。

つまり、不意打ちが全く効かない。望実のサイドエフェクトに比べて、はるかに戦闘向きの能力だ。

しかし、影浦に駆け引きは向いていない。今隣で和希が何を考えていたとしても、望実のサイドエフェクトとは違って、思考の内容をそのまま読み取られることは無いということだ。

それなら安心だと、和希はほっと息を吐いて、影浦に耳打ちする。

「カゲ。明日の放課後、校舎裏に来てくれないかな。他の誰にも聞かれたくない、大切な話があるんだ」

「は…?」

小さな声でそう言ったすぐ後、Aチーム対Bチームの試合が終わり、和希はピッチに駆けだしていった。


場所は変わり、三門市内のとある家屋の地下室で、とある3人が集まっていた。

そこは、クロヴィの新たな拠点。ボーダーに拠点を潰されてから1ヶ月しか経っていないが、和希と望実をはじめとした諜報員が玄界の文化を調べつくした結果である。情報は力なりという国家の方針は、全く間違ってはいなかった。

「では、これより会議を始める。議題は、アフトクラトルの大規模侵攻についてだ」

会議を先導するのは、和希と望実の父である、織本正人だ。

「アフトクラトルの密偵からの情報によると、1月20日の13時頃から、アフトクラトルの大規模侵攻が行われる。私たちの目的は、まずは和希と望実の捕獲もしくは処分、次にアフトクラトルとボーダーの大規模戦闘を観測することで、トリガーの性質や戦い方を見定めることだ」

状況を整理して伝える正人に、部下の女が恭しく頭を下げ、指示を仰ぐ。

「かしこまりました。それで、作戦はどうするのですか。流石和希さんは隊長の息子なだけあって、危機管理は完璧です。市民と一緒にいれば私たちが襲えないと読んで、常に誰かと一緒に行動しています」

正人が和希と接触した夜から、彼らは小型トリオン兵を用いて、和希と望実の動向を監視していた。

1人になる時間帯などを見定めるためだったが、彼らは多くの時間を学校と玉狛支部で過ごしており、その道中も学校やボーダーの友人と共に行動していたため、襲うに襲えなかったという背景がある。

夜寝ている間に襲撃するという手もあったが、最近は玉狛支部で寝泊まりしており、それも難しいという結論になったのだ。

そんな八方ふさがりな状況を、正人は大規模侵攻で打開しようと考えていた。

「だからこそ、私たちは大規模侵攻の混乱に乗じて、彼らに接触する。アフトクラトルは『ラービット』を大量投入するほか、黒トリガーも3本以上投入するという情報だ。これほどの規模の侵攻なら、必ず奴ら2人が孤立する時が来る。その時を狙って、俺が奴らを戦闘不能にし、ベイルアウトした場合は別働でお前たちが身柄を抑えに行け」

クロヴィは少数精鋭で動いている。玄界にいるメンバーのうち、戦闘員は正人しかいない。しかし、それで充分だった。

「俺が和希と望実を倒し、ベイルアウトが無いようなら、その場で拘束する。もしベイルアウトすれば、移送先は、奴らがよく出入りしている玉狛支部だろう。非常時で戦闘員は出払っているはずだ。非戦闘員のお前でも、充分拘束することができる。万一移送先が違った時のために、小型トリオン兵を使って光線の軌道を記録しておけ」

「はっ!」

複雑な作戦ではアクシデントに対処できない可能性がある。非常時のプランはシンプルであるほど良いというのが、正人の経験則だ。

この作戦の成功確率は、90%以上。

「さあ、国に背いた愚かな息子たちを、矯正してやろうじゃないか」

「はい、隊長!」

双方の準備が整った。

大規模侵攻まで、あと僅か。


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