漆黒の兄弟 30話 『レプリカ』

漆黒の兄弟30話 ワールドトリガー二次創作小説 漫画

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30話 『レプリカ』

「お疲れ様です!彼らを連れてきました!」

「ご苦労」

ボーダー本部の会議室に来るのは、3度目になる。

はじめは、トリオン兵『キャット』などと引き換えに、入隊の交渉を行った。

2回目は、今後攻めてくるクロヴィの対策会議に参加した。

そして、今回。3回目の会議は、ボーダー全体で対処すべきことだからか、前回までよりも参加人数が多いように思える。

城戸司令官、忍田本部長らをはじめとした、ボーダー上層部の面々。

おそらくボーダーの中核を担っていると思われる、風間や三輪などA級隊員が数名。

そして、玉狛支部からは、林藤支部長、迅、宇佐美ら。さらに、近界民枠として、僕たちと遊真も呼ばれているようだ。

決して、僕たちに好意的な視線だけではない。近界民への差別意識、疑い、敵意。サイドエフェクトのない和希にも、そうした感情が伝わってきた。

「それでは、会議を始める。議題は、今後予測される、大規模侵攻についてだ」

城戸司令の号令で、張り詰めた真剣な空気に切り替わる。

そして、忍田本部長により、1月下旬に近界民からの大規模な攻撃が予測されること、その規模は4年前の第一次大規模侵攻すら大幅に超えることが説明された。

そして、一通りの説明が終わると、彼らは和希、望実、遊真の3人に視線を向ける。

「今回君たちに来てもらったのは、近界民としての意見を聞きたいためだ」

「近界民としての意見、ですか?」

忍田本部長の言葉を和希が繰り返すと、鬼怒田開発室長が圧力をかける。

「近界にいくつもの国があることはわかっとる。知りたいのは、攻めてくるのがどこの国で、どんな攻撃をしてくるのかということだ。おまえたちが近界民側の人間だろうが何だろうが、ボーダーに入隊した以上は協力してもらう」

和希と遊真は、無表情のまま無言で目を合わせ、一呼吸置いてから、和希が口を開く。

「…そういうことでしたか。それなら、僕たち2人よりも、遊真の相棒の方がお役に立てるかと思います。遊真」

「はいよ。レプリカ」

「承知した」

遊真の指輪からにゅうっと出現したレプリカに、一瞬周囲がどよめくが、すぐに落ち着く。

「はじめまして。私はレプリカ。ユーマのお目付け役だ。私の中には、ユーゴとユーマが旅をした近界の国々の記録がある。おそらくそちらの望む情報も提供できるだろう」

「おぉ…!」

忍田と鬼怒田が、レプリカの言葉に期待を見せる。

ただ、レプリカとしては、タダで情報を提供するつもりはない。

「だがその前に。ボーダー本部には、近界民に対して無差別に敵意を持つ隊員もいると聞く。また、当時は仮入隊だったとはいえ、既にボーダーに入隊していたノゾミに、話も聞かずに銃を向けた者もいた。私自身、ボーダー本部をまだ信用していない」

「……!!」

三輪が大きく反応を見せる。それはまさに、自分のことを言われているのだと分かったから。だが、さすがにこの場で文句を言うことはできず、黙って話を聞く。

「ボーダーの最高責任者殿には、私の情報と引き換えに、ユーマ、そしてカズキとノゾミの安全を保証すると約束していただこう」

(望実、これからの言葉に嘘が無いか、きちんと確認しておくんだよ)

(わかってます、兄さん)

2人の兄弟はアイコンタクトを行い、城戸司令官に注目する。

かなり神経を張り詰めての交渉だったが、意外なほどあっさりと、城戸司令官は次の言葉を口に出した。

「ボーダーの隊務規定に従う限りは、空閑遊真、織本和希、織本望実の安全と権利を保証しよう」

「……!!」

和希は、ほとんどためらうことなく発せられたその言葉に対して。望実は、彼の感情の動きに対して。各々が衝撃を受けていた。

その言葉に間もなく、レプリカが条件の通りに説明を始める。

「それでは、近界民について教えよう」


対策会議が終わり、修と遊真、和希と望実は、本部内の休憩スペースで休んでいた。

遊真と和希は飄々としているのに比べて、修は明らかに疲れており、望実に至っては涙目だ。

「会議、雰囲気こわかった…!」

「ちょ、望実!仮にも遊真や修くんの先輩なんだからさ、もうちょっとしっかりしようよ」

「でも、本当にこわかったんです!特に、風間さんの隣に座ってた人、僕たちにすごい感情向けてて…」

「かざまさんの隣?…みわ先輩か」

「…あの人は確かに、睨んでましたね」

今にも泣きそうな望実を、和希が少し叱責し、遊真はその様子を星を飛ばしながら傍観する。

隊長である修は、望実をどうフォローしたらいいか、冷や汗を流しながら考えていた。

望実のサイドエフェクト『エンパス』も、こういう時には良し悪しだ。

落ち着いたところで、和希は「真面目な話をしようか」と声をかける。

「ねぇ遊真。城戸さんのあの言葉に、嘘は無かったと思う?」

「あー、おれたちの安全を保証しますってやつ?嘘じゃなかったよ」

「うん。修くんもそう思った?」

「僕にはサイドエフェクトは無いですけど…、嘘はついていなかったんじゃないかと思います」

「そうだね。僕もそう思った」

和希、遊真、修は、城戸の言葉は本当だったという結論に落ち着いたが、望実はどこか違和感を覚えていた。

「望実、何かあった?」

「城戸さんの心、なんだか、これまでの印象とずいぶん違うような気がするんです」

「…というと?」

望実は、不確かな細い糸をたぐるように、ゆっくり思い出しながら話していく。

以前彼に会った時は、兄弟が近界民であるということに対して、強烈に排除しようという意思を感じた。ボーダー本部の遊真に対する対応などからも、城戸のことを冷酷で厳格な人間であると判断していた。

しかし、今回読み取った感情は。

「なんか、親心、みたいな。特に遊真に対して、愛情のようなものを感じて。これまでの人物像とはあまりに違って、ちょっと驚いてしまいました…」

「へぇ。たしかに、僕たちの想定してた人物像とは、だいぶ違うようだ」

そこに、心当たりがあった修が声を上げる。

「城戸司令は、空閑の父親の後輩で、かなり古い付き合いだと言ってました。あと、昔は玉狛のように、近界民と友好関係を築いていこうとした時期があったとも。それが何か関係あるでしょうか…」

「修くんナイス!良い情報だ」

和希は、新しく増えた情報をもとに、再び城戸のプロファイリングを進めていく。

これまでの発言、挙動、ボーダー全体の動き。望実の読み取った感情や、ボーダーと三門市との関係まで考慮に入れると、1つの仮説が浮かび上がってくる。

「近界民を無差別的に排除するという城戸さんの思想は、ボーダーを存続させるための体面ということなのかもしれないね。市民の感情に迎合して支持を集めるという面でも、近界民への憎悪を煽って隊員を募集するにも、そういう思想の方が都合が良い」

「つまり、城戸司令は近界民への個人的な恨みではなく、組織の方向性としてそちらの方が良いと判断しただけで、心中は遊真のような近界民とは良い関係を築きたいと思っているかもしれない…?」

「推測の域を出ないけどね。でも実際、近界民への恨みとかは、もちろんあると思う。仲間が何人も殺されてるだろうし、顔に大きな傷跡があったでしょう」

「はい…」

つまり、近界民へ何らかの恨みはあっても、城戸本人のそれは無差別的ではないということだ。ただし、無差別に近界民を敵視する姿勢の方が、市民や隊員から良く思われやすい。だからそのように装っているということなのだろう。

なるほどと納得したところで、彼らのもとに歩み寄ってくる人物が1人。

「忍田さん、お疲れ様です」

「和希くん、望実くん、遊真くん。今日は協力してくれてありがとう。特に近界の情報や、各国のトリガー使いの情報は、本当に助かったよ」

「いえ、鬼怒田さんもおっしゃっていたように、ボーダー隊員になった以上、当然の義務ですから」

レプリカの情報により、大規模侵攻を仕掛けてくる国を、アフトクラトルとキオンに絞った後、和希と望実は、その国の内情やトリガー使いの情報などを提供していた。

その2国とも、和希と望実が赴いたことのある土地だったのは、僥倖といえよう。

一般の傭兵としてその国を訪れた有吾や遊真と、国を代表する立場で訪れた和希と望実とでは、得られる情報の質が違う。

そのため、レプリカと兄弟とで、互いに補うように情報を提供することができたのだ。

「私はもし君たちが望むなら、君たちを正隊員に昇格させたいと思っている。君たちにはそれだけの実力があるし、ボーダーに大きく貢献してくれた。どうだい」


玉狛支部に戻ると、もう日が落ちかけている時間になっていた。

和希は支部の屋上にて、風に当たりながらぼんやりと夕焼けを眺めていた。

階段から足音がし、誰かがやってくることに気付く。それが誰か、和希にはもう予想はついていた。

「和希、ぼんち揚げ食う?」

「迅さん。ではひとつ、いただきます」

迅は和希の隣に座り、ボリボリとぼんち揚げをかじっている。

それに倣って和希もかじると、迅は満足そうに笑った。

「和希。今日あの後、忍田さんと話したろ。B級に上げるみたいな話、されなかったか?」

「えぇ、まさにその話をしてくれたのですが、僕たちも遊真も断ってしまいましたよ」

「そっか。どうして?」

「まぁ、色々あるので、ノーコメントです」

和希がいじわるをするように口に人差し指を当てると、迅はふざけたように「なんだよ」と背中を叩く。

「その代わり、あの後忍田さんと直談判をして、『C級隊員でも救助・避難の目的であれば、トリガーを使っても良い』という規則について、上層部内で議論してもらえることになりました。一刻を争う非常時に、せっかくのトリガーを使わない手はないと、必要なら証拠を見せると言って、説得してきました」

「へぇ。一応言っとくと、大規模侵攻の時にC級がトリガーを使っている未来が視える。おまえの提案は、きっと飲んでもらえるよ」

「それはよかった」

にこりと笑う和希を見て、迅はふと何かに気付いたように目を細める。

「和希。おまえ、日中はずっとトリオン体でいるのか?生身が怪我して不便なのはわかるが、少しは換装を解かないと、怪我もずっと治らないし、筋力もすぐに落ちるぞ」

「はは、大丈夫ですよ。ご心配なく」

へらりと笑ってごまかそうとする和希に、迅は少し厳しい口調になる。

「まてまて、おまえはまだ成長期なんだから、骨折なんてはやく直さないと、変なクセがついても大変だ。そのくらい、おまえも知ってるだろう」

「……」

笑って受け流そうと思ったが、迅の真剣な表情を見てしまうと、そんな表面だけの言葉では逃れられないことを悟る。

思わず目をそらしてしまうと、ずっと隠してきた本心が、ぽつりと言葉になって表れた。

「……でも、どうせ怪我を治したって、長生きするつもりもないので…」

自分の命に何も価値が無いかのような言い方に、迅は眉を顰める。

「前にも言っただろ。和希、お前もおれの大事な後輩の1人だ。おれはお前にも、楽しい時間を生きてほしいと思ってる」

迅の心からの優しさが、和希の真っ黒な心に溶けていく。

「迅さんは、僕たちの綺麗なところしか見ていないから、そう言ってくださるんでしょうね…」

和希も望実も、本物の戦場を生き抜いてきた。人の命を何度も奪った。

「僕たちはもう、真っ黒なんです。こうして生きていく資格も、きっと無いんです」

兄弟は今、一歩間違えばボーダーからもクロヴィからも追われる、危うい立場にいる。

それもきっと、天罰なのだろう。僕たちには安寧の地など、きっと無いのだろうと思う。

「人の命を奪っておいて、自分だけのうのうと生きていくつもりはありません。常に気を張って考え続けなければ生き残れないなんて、極限の生活も正直辛いんです。でも、望実がいるから、僕は身勝手に自害するわけにもいかなかった」

圧し潰されるほどの罪悪感も、危うい生活も、できるならもう終わりにしたい。

「今度の大規模侵攻で、この街や望実を守って命を落とすなら、悪くないかなって思うんです」

本心からの和希の言葉に、迅は少しだけ逡巡し、かけるべき言葉を探し出す。

「おまえたちは、死なせないよ。何があっても、ヤバい時は必ず助けに行く。これから先も、楽しいことはたくさんあるさ」

「…そうだったら、いいな」

日は沈み、彼らのいた屋上は真っ暗になる。

彼らがどんな表情をしているのかは、暗闇が覆い隠して見えなかった。


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