漆黒の兄弟 27話 『三雲修』

漆黒の兄弟27話 ワールドトリガー二次創作小説 漫画

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我らがメガネの修行パートです。

本作では、『ラッド』の騒動を和希と望実が解決してしまったので、オサムはまだC級のままです。

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27話 『三雲修』

翌日、修は和希と共に本部のC級ランク戦ブースに来ていた。

「三雲くん、緊張してる?」

「少し…。でも、緊張というより、ワクワクしてます」

「あはは」

前日の夕食後、修は和希から直接指導を受けた。

訓練というよりは、講義や助言のような形式であったが、和希の考えるC級ランク戦での勝てる戦い方を教わり、修は興奮していた。

これまでは、全くと言っていいほど、ランク戦で勝つことができなかった。

でも、昨日和希さんから、ランク戦での勝ち方を教わった。勝てるビジョンを初めて見ることができた。

土曜日なので、ブースに人は多い。戦う相手には、困らない。

「じゃ、記念すべき初戦だ。昨日話したことを意識して、まずは2000ポイントくらいの子を倒しておいで」

「はい!」

修の個人ポイントは、まだ2500ポイント。

入隊してからかなり経つが、未だにB級には上がれていない。

長い間足繫くランク戦に通い、訓練も休まずに続けているが、ポイントが伸び悩んでしまっていた。

これは、そんなもどかしい状況を、打破することができるチャンス。

この初戦、絶対に勝つ!

そのような熱い気持ちを持ち、修は個人ブースに入っていった。

修が選んだ対戦相手は、2200ポイントのアステロイド。

修は、和希からのアドバイスを思い返す。


「まず、ひとつだけアドバイスね。戦闘では、相手の土俵で戦わないことが大切。相手が苦手としていて、自分が得意とするフィールドで戦えば、必ず勝てる」

「相手が苦手で、自分が得意なフィールド、ですか…」

和希の言葉を受けて考えてみるが、本当にそんなフィールドがあるのか、と疑問に思う。

自分は運動神経も悪い。トリオン能力も低いし、攻撃手相手でも銃手相手でも、負けてばかりなのだ。

自信なさげに考えこむ修に、和希は明るく次の提案をする。

「じゃあまず、トリガーで考えてみよう。三雲くんが使っているトリガーはレイガストだね。じゃあ、この武器の強みは何かわかる?」

「武器の強み、ですか…。他のブレードトリガーに比べて、耐久力がある、とか…?」

「そうだね。僕の考えだと、弧月と比べた時の利点は、耐久力と盾モードだ。じゃあ、弱みは何だろう」

「弧月に比べて、重くて振り回しづらいです」

「その通り。正解」

和希の得意とするコーチングは、問答法だ。

古代ギリシャのソクラテスが考案した手法で、相手に疑問を投げかけ答えさせることで、自分の論理の矛盾に気づかせたり、答えにたどり着かせる。和希のやり方は、それを少し自己流にアレンジしたものだが。

何かをしろと命令されるよりも、自分で気づいた方が力を発揮する。

それは、長年戦いを強要されながらも、自らの意思で望実を守ってきた和希が、一番よく理解している。

「レイガストの長所と短所を洗い出したうえで、三雲くんは、どんな勝負をしたらよくて、どんな勝負をしたらいけないのか、わかるかな」

「したらいけないのは、スピード勝負。すべきなのは、盾モードを活かせる戦いですか…?」

「そう!そして、盾を使われたら困るのは、どのポジションだと思う?」

「攻撃手ではなく、銃手…!」

「そうだね。まずは、盾で防ぎやすい、アステロイドの使い手と対戦してごらん。トリオンで劣っていても、レイガストの盾なら簡単に割れたりしないから」


修はレイガストの盾モードでアステロイドの弾丸を防ぎながら、果敢に相手に走り寄っていく。

(和希さんの言った通りだ。盾を使って近寄るだけで、相手は焦って狙いが散漫になるって)

『レイガストの希少性もひとつの武器だよ。レイガストで強い人が少ないってことは、対策もされづらければ、対戦経験も少ないってことだ。野球とかで左利きのピッチャーが重宝されるのと同じだよ』

C級の使う訓練用トリガーには、基本的にシールドが付いていない。

修も、烏丸から教わるまでは、レイガストに盾モードがあることすら知らなかった。

つまり、対戦相手はシールドを使って弾を防がれる経験は初めてである可能性もあるのだ。

そのように混乱しているうちに、修は弾丸を防ぎながら近距離に近づく。

あとは、盾モードと刃モードの切り替えを、どれだけ速くできるかがものを言う。

そのため、昨日あの後練習したのは、たった2つのことだけ。

ひとつは、正面から来るアステロイドの弾丸を、レイガストの盾モードで防ぐ練習。

もうひとつは、いかに素早く盾モードを解除するか。

『この2つができたら、C級レベルのアステロイドの使い手は、簡単に倒せるようになると思うよ』

(ありがとうございます、和希さん!)

「うおおおぉぉ!」

相手の胴体をレイガストでぶった切り、修は久しぶりの勝利をした。


夕方になり玉狛支部に戻ると、修が師匠である烏丸に報告をする。

「烏丸先輩、今日はC級ランク戦に行ってきて、3000ポイント前後の相手を中心に、10勝3敗でした!和希さんのアドバイスと烏丸先輩のご指導のおかげで、普段と比べものにならないくらい勝てました!」

「…まじか。すごいな。和希さん、どんな指導したんすか」

「いやいや。三雲くんががんばったからだよ。僕は少し後押しをしただけさ」

「ええ…」

修と共に烏丸も冷や汗を流していると、さあ夕食にしようと和希はその場を立ち去る。

今夜の夕食当番は和希だ。外で買ってきた野菜を広げ、丁寧に下処理をする。

「兄さん、手伝いますよ」

「望実、ありがとう」

2人で手分けして食事の準備をするのは、普段の生活と変わらない。

しかし、用意する食事の量が大幅に増えたのは、それだけ彼らの生活が充実した証拠だろう。

望実はふと感じた疑問を和希に投げかける。

「それにしても、兄さんが誰かに指導をしてあげるの、本当に珍しいですね。クロヴィにいた頃は、僕以外に指導することなんてほとんどなかったのに」

「まあ、彼には大きな借りもあるし、個人的に彼のことがとても気に入ってね。助けてあげたくなったんだ」

ふわりと笑う和希に、望実も嬉しくなる。

望実にとっても彼は、大好きな友達であり、チームメイトであり、頼れる隊長だから。

「それに、彼の戦闘力が上がれば、そのぶん周囲の人の生存率が上がる。だから、結局は自分のためなんだよ」

結局自分本位なのだと、自罰的に呟く和希に、望実はそっと自分の気持ちを口に出した。

「それは兄さんの優しさですよ。僕や、僕の好きな人たちのために、たくさん動いてくださって、ありがとうございます」

望実が肯定してくれた優しさに、和希はふっと表情をゆるめる。

「じゃあ望実。もう夕食ができるから、みんなを呼んできて。今日のごはんは肉じゃがだよって」

「はい!」


夕食後、和希は再び烏丸に断りを入れる。

「烏丸くん。今日もこのあと三雲くんを借りていい?」

「もちろんっす。よろしくお願いします」

そのやり取りを見ていた小南が口をはさむ。

「和希、あんた自分の修行もほっといて、昨日からメガネ呼びつけて何してるわけ?」

「あ……」

(小南さんには話してなかったなぁ。というか、せっかく僕の師匠になってくれるって言ってるのに、失礼だったかな…)

ひとまず謝罪をしようと考えていると、その前に烏丸が疑問に答える。

「小南先輩。三雲、C級ランク戦で負けっぱなしだったのに、和希さんに昨日2時間くらい指導してもらって、今日勝ったらしいっすよ」

「はぁ!?」

小南は知っている。

どんなに想いが強くても、どんなに素質のある人間でも、一朝一夕で強くなれるほど、戦闘は甘くない。

ずっと第一線で戦ってきた小南は、その事実を誰よりも深く理解していた。

それなのに。どんな指導をしたのかは知らないが、たった2時間でメガネが強くなった?

信じられないというふうに、小南はあんぐりと口を開ける。

「とりまる!あんた、師匠としても負けてんじゃないわよ!」

「いやいや、相手は和希さんすよ?それは負けますって!」

八つ当たりのように烏丸に話す小南を見て、和希は謝罪をする。

「小南さん。まず、せっかく師匠になってくれたのに、あまり訓練できていなくてごめんね。ちょっと色々やることがあったんだ」

正面からの素直な謝罪に慣れていない小南は、「べつにいいわよ…」と、少し頬を染める。

「三雲くんにレクチャーするのは、今日で終わりかなと思ってる。あとは、自分で試行錯誤しながらやっていくのが一番良いと思うから。明日・明後日くらいまでは少しやることがあるから訓練はできないけれど、それが終わったら、ぜひ指導をお願いします、小南さん。」

「ふん。わかってるならいいわ。言っとくけど、あたしが指導する以上、ハンパは許さないから」

「はは。覚悟しておくね」

和希の誠実な言葉に小南の機嫌が上昇し、遊真を連れて意気揚々と訓練室に入っていく。

それを見届けると、和希は修に声をかけた。

「三雲くん。今日はハウンドとバイパーを使う相手への、対策を考えていこうか」

「はい!お願いします!」

そして、月日が過ぎるのは速く。

正式入隊日は、あっという間にやってきた。


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