漆黒の兄弟 24話 『織本正人』

漆黒の兄弟24話 ワールドトリガー二次創作小説 漫画

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24話 『織本正人』

12月18日の夜9時頃。

迅と嵐山隊が、遊真の黒トリガーを守るために、本部の精鋭たちと刃を交えている頃。

和希は1人、警戒区域から離れた住宅街の路地裏に来ていた。

(たぶんこのあたりなんだけどな…)

和希の自宅にあった、クロヴィ製のレーダーを片手に、真っ黒な服にフードを被って、和希はキョロキョロと辺りを見渡していた。

3日前、和希と望実が、それぞれ正式に小南と烏丸の弟子になってから。

もともと好戦的で、チームでA級に上がるという目標もある望実は、遊真や修と共に玉狛支部にこもるようになっていたが、和希は他にやることがあるからと言って、彼らより少し早めに帰宅するようになっていた。

それはもちろん、クロヴィからの刺客にどのように対応するか、作戦を練るためである。

和希は何時間もかけて、時には夜を徹して自室の机に向かい、次のクロヴィの動きを予測し、その対策を立てていた。

今日もそのように過ごしていたところ、和希の机に置いてあったクロヴィ製のレーダーが、新しい隠密トリオン兵を感知したため、クロヴィの隠密活動用トリガーを起動して、黒いフードで顔を隠しながらその場所まで来たのだ。

(レーダーには確かにこのあたりと表示されている。ただ、ボーダーが駆けつけていないということは、前に情報提供した『キャット』ではないんだ)

和希はボーダー入隊の交渉の際に、隠密トリオン兵『キャット』の情報は提供したが、自宅にあるクロヴィ製レーダーのことと、他の種類の隠密トリオン兵のことは話さなかった。

それは、クロヴィの初動を自分たちがいちはやく捉えるためだ。

もしボーダー本部にレーダーのことを話してしまえば、おそらく没収され、最悪の場合はクロヴィに動きがあったとしても、自分たちには知らされないという状況に陥る。

クロヴィに自分たちの存在が知られてしまった以上、はじめに狙われるのは僕たちだ。

そんな状況はあまりにも危険すぎる。

和希にとって、三門市の安全は二の次だ。

何よりも優先すべきは、和希と望実の安全。

そのためなら、味方を惑わすことも厭わない。

これまでだって、そうして生きてきた。

(…本当に?)

本当に、それで良いのか。疑問が和希の脳内をめぐる。

思い出すのは、対価なしに自分たちを救ってくれた玉狛支部のメンバー。

そして、初めて心を許すことができたクラスメイトたち。

そして、これまでは兄以外に心を許すことがなかった望実が、初めて信頼したチームメイト。

(…だめだ。これは今考えることじゃない)

そこまで想いをめぐらせると、和希は首を横に振り思考を中断する。

戦場において、迷いは死につながる。

敵の手を分析。次の手を予測。

いつだって考え続けろ。それが僕の、唯一の取り柄だろ。

(ボーダーが動いていないのなら、『キャット』ではないトリオン兵か、もしくは人物だ。その目的として考えられるのは…。)

そう考えを深めようとした瞬間、殺気を感じて飛びのくと、さっきまでいた場所には多数の銃跡があった。

「久しぶりだな、和希。腕は鈍っていないようで何よりだ」

「…父さん。そうだよね、罠に決まってるよね」

そして姿を現したのは、和希の実の父親である、織本正人まさとあった。

(父さんは、僕に剣を教えた師匠であり、クロヴィでも指折りの攻撃手。僕と同じで頭脳を買われており、作戦を練り部隊を指揮することにも長けている。考えなしの武闘派ならなんとか対処できるんだけど。父さんは僕の考えや戦いのクセなども全て把握しているはず。僕1人ではあまりにも分が悪い相手だ)

玉狛支部に連絡を入れて、助けてもらうか。

いや、僕の予測では、父さんは今ここで僕に危害を加える気はないはずだ。

それならば、ここでの父さんとの接触は、ボーダーに知られない方が望ましい。

でももし、僕がそう考え、ボーダーに連絡しないということも想定の内だったら…?

父さんが相手だと、相手の思考の裏の裏まで読まないといけないから、難しい。

可能性は低いけど、もしここで父さんが本気で襲ってきたら、すぐにやられるわけにはいかない。

和希がいつでも戦闘に入れるように剣を構えると、反対に父親は銃をしまった。

「今日はお前と戦うために来たのではない。話がある。剣を下ろしなさい」

「…できないよ。いつ何されるかわからないんだから」

「お前のことだから、俺が何をしに来たのか、わかっているんじゃないか、和希」

その問いに、和希は答えない。

重い沈黙の後、口を開いたのは正人のほうだった。

「和希。クロヴィは玄界偵察任務を続行する。和希と望実、そしてフィロス隊の3人をスパイとして、ボーダーを探るようにと命令が出た」

「へぇ。そんな命令、裏切者の僕たちが頷くとでも?」

「頷いた方が賢明だ。逆らうのなら、屈服させる。逃げるのなら、逃げられなくする。お前たちの考え方も戦い方も、一番よく知っているのは父親であるこの俺だ」

「…なるほどね」

クロヴィにとってボーダーは脅威だ。だから、その戦力や戦術傾向を把握しておきたい。それが、玄界遠征の目的だ。

しかし、これまではボーダーに潜入するどころか、接触することすら叶わなかった。

約2年にわたり行われてきた潜入準備も、隊員が捕獲されてしまった今となっては無意味に帰す。

そこで彼らが目をつけたのが、和希と望実、そしてフィロス隊の3人だ。

和希と望実は、既にボーダー内部におり、ある程度の信用は得ているらしい。

そしてフィロス隊は、捕虜という扱いではあるものの、ボーダーの内部、おそらく相当な中枢にいるというのは明らかだ。

したがって、和希と望実を寝返らせるか、フィロスと通信手段を確立することが、ボーダーの情報を得ることが最も効率の良い手段であると、クロヴィは考えたということだ。

「僕たちは、さっき父さんが言ったように裏切者だけど、王はそれを許すって?」

「王は寛大でおられる。もちろん罰は受けなければならないが、それを上回る功績を今回の任務で打ち立てれば、命は取らないとのことだ」

「…へぇ」

確かに、合理的な判断ではある。

クロヴィが遠征任務を始めたのは2年前。そこから、民間に潜入するまで半年かかった。さらに、肝心のボーダーに接触するのは、未だ叶っていない。

つまり、既にボーダー内部にいる和希と望実には、遠征数年分の価値があるのだ。

そしておそらく、「命は取らない」というのも、嘘ではないだろう。

「お前にとっても、悪くない取引のはずだ。命令に従うのであれば、クロヴィは命を奪わない。ボーダーにも、お前の腕なら易々とスパイの証拠をつかませないだろう」

「……」

確かに、悪くない取引ではある。

もしこの命令に否と言えば、再びクロヴィから命を狙われることになる。

ボーダーと連絡を密にしていても、今のようにどうしても1人になるタイミングはある。そこを狙われたら終わりだ。

たとえ三門市を出たとしても、あらゆる手段を使って追ってくるだろう。

(…でも)

しばらくの逡巡の後、和希はまっすぐな瞳で父親を見上げた。

「僕たちは、もうクロヴィに戻るつもりはないよ。無理やりさせるつもりなら、全力で抵抗させてもらう」

「…なら、力ずくで言うことを聞かせるしかないな」

彼の発する殺気に、和希はとっさに大きく距離を取る。

そんな和希を見て、正人は余裕ありげに笑う。

「そう怖がるな。今はお前を捕まえる気はないよ。頭の切れるお前のことだ。明らかな罠であるこの場所に来た以上、逃げる手段くらい用意してあるのだろう」

「捕まえないっていうのが本心かどうか、僕には判断がつかないからね」

「まあ待て。命令を断られ、逃げられるところまでが俺の想定内だ。なら、俺がここに来た理由は何だと思う?」

「愛する息子の様子を見に来た、とかだったら良いのになって思うよ」

薄く笑って軽口をたたくが、心は余裕なんてない。

はやく逃げないと。でも、少しでも多く情報を引き出してからこの場を離れたい。

焦る和希の考えなんてお見通しだとでも言うように、正人はゆっくりとした動作で和希に歩み寄る。

「それもあるが、お前に忠告をするためだよ。お前たち2人は、クロヴィから逃げ切ることはできない。必ずもう一度、クロヴィの命令の下に動くことになるだろう。だから、早めに諦めて戻ってきた方が身のためだ」

「…どういうこと」

「俺は、お前の弱点を知っている。望実だ」

「望実を人質に取る気!?」

望実の名前が出た途端に、思ったよりも大きな声が出てしまったと気づき、和希はとっさに口を押える。

その様子を見て、正人はやはりと言ったように笑う。

「変わっていないな、和希。お前たちの兄弟愛は知っている。だからこそ、国から逃げ出したのだということも。それはお前たちの強みでもあるが、俺達を相手にするならば、それは弱みだ」

「……!!」

「なぜなら、望実を捕らえて首に剣を当てるだけで、お前を容易に動かすことができるのだから。お前たち2人を手中に入れることなど、いとも容易い」

その言葉に言い返すことができない悔しさに、和希は顔を歪める。

どうして僕たちは、こんな血も涙もないような、冷たい国に生まれてしまったのだろう。

僕たちに、自由に生きる権利なんて、無いとでも言うのか。

「…それが親のやることかよ」

「わがままな息子をしつけるためなら、そういうこともする。それが、クロヴィに忠誠を誓う軍人だ」

いつも父さんは、そう言うよね。

僕たちのことなんて、気にもとめなくて。いつだって優先するのは国や地位、名誉ばかり。僕たちはいつだって、ただひたすらに耐えるしかなくて。

それが、国の総意か。それが、世界の総意か。

そんな運命に、従うわけにはいかない。

ふつふつと沸いてくるものは、怒りか、勇気か。

国が、世界が。家族までも、僕たちを不幸にするというならば。

僕は必死で、抗い続けよう。

「父さん、やっぱり最低だね。やれるものならやってみなよ。望実は僕が守る」

これまでに出たことのないほどの低い声で宣戦布告をし、和希は闇に姿をくらませた。

そして、1人残された父親は踵を返し、和希とは逆方向に歩き始める。

「…くく。確かにお前の頭脳ならば、身を守る方法なんて数百通りも思いつくのだろう。ならば、お前にも想定不可能な、イレギュラーが起こるべき瞬間にすればいい」

彼は、真っ黒な笑みを浮かべて言った。

「アフトクラトルの大規模侵攻。そこで、お前たち2人を追い詰める」


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