漆黒の兄弟 20話 『空閑遊真』

漆黒の兄弟20話 ワールドトリガー二次創作小説 漫画

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20話 『空閑遊真』

迅と修が玉狛支部に帰ると、一同はリビングで話しているところだった。

「ふぃ~す、おつかれ~!」

「おっ、迅さん、オサム」

脱力したような迅の挨拶に、遊真が彼らの名を呼ぶ。

もうこれが、最後になるかもしれないという哀愁を帯びながら。

「迅さん、三雲くん、本部の反応はどうでしたか?」

「一応は収まったけど、本部はまだまだ遊真のトリガーを狙ってくるだろうなぁ」

素早く和希が尋ねると、迅は頭をかきながら答える。

そして、迅と共に帰ってきた修は、助けを求めるように彼に尋ねる。

「迅さん、これから、どうすればいいですか?」

「まぁ、遊真を守るなら、シンプルなやり方が一番だろうなぁ。遊真、ボーダー玉狛支部に入んない?」

迅が遊真を玉狛支部に誘うが、遊真は首を横に振った。

「迅さん、オサム。こっちだと近界民は肩身が狭いし、おれは向こうの世界に帰るよ」

どこか諦めたような遊真の言葉に、修は直感する。

こいつは、このまま向こうの世界に帰らせてしまってはいけない。

そう感じたものの、明確な根拠も方法もわからない修は、黙って話を聞くしかなかった。

「せっかく会えたのに、もう帰っちゃうのかぁ。残念だなぁ」

「悪いね、しおりちゃん」

涙目で話す宇佐美に、遊真は軽く謝罪する。

「ま、お前がそう決めたなら、良いんじゃないか」

「うん。ありがと。迅さん」

迅の言葉に、遊真は寂しげに頷く。

「大丈夫。これからも楽しいことはたくさんあるさ。でも、そう急いで帰ることもないだろう。今日1日くらい、玉狛に泊まっていけよ」

「うん、そうする」

「メガネくんと千佳ちゃんも、今日はもう遅いし、親御さんに連絡して、今日はここに泊まっていけばいい。空き部屋はたくさんあるからな」

「はい…」

「はい、ありがとうございます」

そして迅は、その後を宇佐美に任せ、遊真と修を支部長室に連れていった。


部屋の準備が終わり、和希と望実は個室でくつろいでいた。

「兄さん、遊真の様子、見ていてどう思われましたか?」

「遊真の?ちなみに、望実はどう思ったの?」

逆に尋ね返されて、望実は口ごもる。

そして、蚊の鳴くような声で、小さくつぶやいた。

「遊真、死ぬ気です…」

「……!!」

望実の告白に、和希は言葉を失う。

否、予想はできていた。

先日のクロヴィとの闘争が終わった後、この4年間で遊真に何があったのかは聞いていた。

遊真の軽率な行動のせいで、父親を死なせてしまったこと。

その事実が、まだ幼い遊真に、どれほどの傷を残しているだろう。

その上、遊真は父親の『嘘を見抜く』サイドエフェクトを受け継いでしまったのだそうだ。

サイドエフェクトにより他人の心を覗くことができる望実が、その負荷に耐えきれずに心を壊しかけてしまった様子を、和希は間近で見てきた。

サイドエフェクトを持たない和希は想像することしかできないが、遊真の『嘘を見抜く』サイドエフェクトも、相当に精神的負荷の高いものであると思われる。

周囲の人間の心の内を感じ取り、誰も信頼することができないと悟ってしまった望実。

望実には、和希がいた。だから、耐えられた。

しかし、遊真はこの世界で1人きり。肉親はいない。

この世界に。人生に。絶望してしまっていても、無理はない。

「遊真の心、何も希望がないんです…。生きる目的が、何もない…。心が、冷たいんです」

望実は、彼の心を覗き見て、気づいてしまった。

まるで、真っ暗な深海のように。

光のない、その世界を。

「兄さん、遊真に生きてほしい。どうすれば、いいですか」

俯いていた顔を上げて、まっすぐ和希の目を射抜く。

助けを求める弟の瞳に、和希は考える。

人の心の問題は、他のどんなものよりも複雑だ。

心の傷を完全に治す方法論など、あるはずがない。

人の心の問題は、不確定要素が多すぎるのだ。

「…望実、ごめん。それを解決する方法は、僕にもわからないんだ」

「え…」

和希がそう伝えると、望実の瞳が揺れた。

絶対的に信頼している兄さん。

どんな時でも、どんな状況でも、最善の一手を考え出し、自分を導いてくれる。

そんな兄さんでも、無理なことがあるのか。

「遊真を救うことができるのは、きっと僕じゃないんだ。必要なのは、もっと純粋な気持ちなんだよ」

「純粋な、気持ち…?」

望実はきょとんとして和希を見上げる。

「今の遊真の心、どこか似ている気がしないか?あの頃の、望実に」

「あ…」

望実はクロヴィにいた頃、今の遊真のような精神状態に陥ったことがあった。

周囲の誰も信頼することができない。生きる意味もわからない。

でも、最愛の兄が、救い出してくれたのだ。最高の愛をくれて。居場所をくれて。

「その頃、望実は何をしてほしかった?また、今の遊真が何を求めているのか、望実ならわかるんじゃないかな」

望実は、遊真の心をもう一度想起する。

きっと、遊真の求めているものはー。

「…だめです、兄さん。遊真の求めるものを、僕は与えることができません」

それは、生きる意味。生きる目的。

「だって、僕だって、そんなもの、持っていませんから…」

それは望実も、和希も同じだ。

和希と望実は、生きることに希望や意味を見出していない。

世界中の全てが自分たちを拒み、平穏に生きられる場所など存在しない。

何度、自分たちの運命を。この境遇を呪ったことか。

しかし、不思議と死んでしまいたいという発想には至らなかった。

それはひとえに、互いの存在があったからである。

望実にとっては和希が。和希にとっては望実が。何よりも大切な、宝物なのだ。

互いが互いを、1人ぼっちにすることができずに生き続けている。

そんな消極的な2人が、遊真に何をしてやれるだろうか。

「悔しいけれど、僕達が遊真にしてやれることは、ないに等しい。それならせめて、彼を温かく送ってあげよう」

「はい…」

何もできないことを悟った彼らは、ただ静かにその時を待つ。

別の部屋で、新たな希望が動き出しているとは知らずに。


その後和希がリビングに向かい歩いていると、そちらから大きな声がした。

「ボーダーに入りたい!?お前が!?」

(…なんだ?)

リビングをそっと覗き見ると、修と千佳と宇佐美が話しているところだった。

「わたし、近界民の世界に、攫われた兄さんを探しに行きたいの」

(……!)

ボーダーに入ってA級隊員となり、遠征部隊に選ばれて、攫われた肉親を捜しに行きたいこと。

A級隊員になるためには、チームを組まなければならないこと。

そして、遊真に生きる目的を与えてやりたいことまで。

(三雲くん、そこまで考えてくれていたんだ…!)

自分はできないと諦めてしまっていたこと。

それをやり遂げようと、奮闘してくれている。

そんな彼が、輝いて見えた。

彼はきっと、僕たちの希望の光に。

「なら、空閑は僕から誘ってみるからー」

「三雲くん、雨取さん、ちょっといいかな」

リビングに姿を現した和希に、3人は少し驚いた様子だ。

「玉狛でチームを作る話、悪いけど聞かせてもらった。1つだけ僕から、お願いがあるんだ」

「和希さんから、お願い事…?」

それから和希が話した内容に、修と千佳はにこりと微笑んで首を縦に振る。

そして、まずは遊真をチームに誘おうと、彼らは屋上へ向かっていった。


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