漆黒の兄弟 15話 『織本望実②』

漆黒の兄弟15話 ワールドトリガー二次創作小説 漫画

←14話  目次  16話→

スポンサーリンク

15話 『織本望実』

クロヴィとの戦いの翌日。

和希が目を覚ますと、真っ白な天井が見えた。

「あっ、兄さん!目が覚めたんですね!」

覚醒してピクリと動いた手に目ざとく反応した望実が声を上げる。

「望実。病院…、そっか、あの後…」

素早く状況を確認した和希だが、消耗したせいか普段より頭の回転が鈍く、その声はおぼつかなかった。

望実に支えられ体を起こすと、負傷した右肩がズキンと痛んだ。

「兄さん…!本当に、ありがとうございます。兄さんのおかげで、これからも僕達はここで暮らせますよ」

望実は深く感謝を告げると、兄の傷を刺激しないように、そっと彼を抱きしめた。

その温かさに、張り詰めていた心が、ホッとほぐれるのを感じた。

本当に、うまくいったんだ。

本当に、よかった。

そこに、望実と一緒に見舞いに来ていた烏丸が声をかける。

「和希さん、無事でよかったっす」

「烏丸くん…、君も無事でよかった」

和希が時刻を確認すると、もう夕方4時をまわっていた。

同じクラスの2人のことだ。きっと、学校帰りに寄ってくれたのだろう。

いや、もしかしたら望実は、学校を休んでずっと付いていてくれたのかもしれないな、と考える。

「あの後、和希さんの計画通り、全てうまくいきました」

あの夜、和希と望実が去った後、玉狛支部の精鋭4人は連携して敵を包囲し、戦闘不能に追いこんだ。

「その身柄はすぐに本部に送られて、和希さんと望実の玉狛支部入隊が、本部から正式に許可されました」

烏丸からの報告に、和希と望実は顔をほころばせる。

「これで、ボーダーから追われることはなくなりますね、兄さん!」

「そうだね。本当に、玉狛の皆さんには感謝してもしきれないくらいだ」

そう話したところで、病室の扉がガラリと開いた。

「それはお互い様だぞ、和希」

「林藤支部長!」

林藤は和希の病室に入ると、彼の頭に手をのせ、わしゃわしゃとかき混ぜた。

「ボーダーとしても、お前たち2人に感謝してもし足りないくらいだ。『ラッド』のこともクロヴィのことも、お前たちなしじゃあ解決が遅れ、被害が拡大していただろう。表彰もののお手柄だぞ」

頭を撫でられるその感触が心地よくて。率直な感謝の言葉がくすぐったくて。

和希は控えめに口角を上げ、望実の手をぎゅっと握った。

「けど、もうあんま無茶な作戦立てんなよ?これからはお前たちも玉狛支部の一員だ。おれたちが庇ってやれるし、責任も取ってやれる。もうこれからは、1人で全部解決しようとか、思わなくて良いからな」

「…はい」

その言葉があまりにも力強くて、和希の肩に入っていた余計な力がスッと抜けていくのを感じた。

そして、その言葉を一番嬉しく感じていたのは、望実だった。

望実は、あまりにも大きすぎる兄に守られてばかりで、常にこう思っていた。

僕がどんなに強くなっても、きっと兄の重荷を軽くすることはできないのだろうと。

なぜなら、望実は和希にとって、「守るべき対象」だからだ。

自分はきっと、兄に守られることはできても、兄を守ることはできない。

兄はいつも、その卓越した才能によって、全てを1人で解決してきた。

その重荷は。重圧は。責任は。どれほどのものだっただろうか。

それを、これからは玉狛の皆さんが軽くしてくださるのだと。

そう実感できたのが、何よりも嬉しかった。

「和希、傷の具合はどうだ?」

「えぇ。たいしたことありません。もうほとんど痛みませんよ」

だから、そんな嘘をつく兄のことを許容できなくて。

「…林藤支部長。兄さん、嘘ついてます。何度も斬られた肩もズキズキ痛んでますし、右手もしびれて、うまく力が入らなくて…。足も折られて、本当は不安でしかたなくて…」

「え、ちょっと、望実…!」

うつむいて小さく話す望実の言葉を止めようとするが、そんな和希に林藤がデコピンをする。

「いたっ」

「和希。これからはそういうの、隠さなくていいからな」

「…はい」

困った顔でうなずく和希を横目に、烏丸が望実に尋ねる。

「望実、それってもしかして…」

「…うん、サイドエフェクトだよ。僕は人の感情を読み取ることができるんだ」

「そうだったのか…!」

烏丸が納得したようにうなずくと、望実ははっとしたようにうつむく。

「あっ、ごめ…、自分の気持ちとか勝手に知られるのって、気持ち悪いよな…」

「いや?ボーダーにもそういう人いるから」

「えっ、そうなの」

「あぁ、あまり話したことないけど、本部の影浦さんって人が…」

「え、カゲさん!?」

「知り合いか?」

軽いテンポの会話に、望実の暗い気持ちが吹き飛ばされたように感じる。

和希と林藤が微笑ましく2人のやりとりを見ていると、迅と小南も病室に突入し、一転にぎやかになった。


翌日、無事に退院した和希は、学校帰りの望実と共に玉狛支部へと来ていた。

迅が彼らを出迎えると、支部長室に通す。

「よう。病み上がりなのに来てもらって悪いな」

「いえ、とんでもないです」

散らかった支部長室の机の上に広げられたのは、ボーダー入隊用の書類と、C級隊員用のトリガーだ。

「本部からの許可も出たし、これ書いて。それから…」

林藤がテキパキと指示を出し、飲み込みの早い和希がどんどん空欄を埋めていく。

しかし、ある欄を見て、和希の手が止まった。

「この保護者同意の欄には、どう書けばいいですか?」

「ん?そうか、お前たちの親は、向こうの世界か」

「はい。クロヴィにいると思います。もう決別しましたし、親でもないです」

冷たいようにも感じられるが、これは和希なりの決意の証だ。

これから自分が、望実の親代わりとして育て、ずっと支えていくこと。

クロヴィとの縁を完全に断ち切り、これからはこちらの世界で生きていくということの。

林藤が少し考える素振りをして、結論を出す。

「それなら、そこは空欄でいいぞ。お前らが訳アリってことは、上層部はわかってるからな」

「はい」

そこ以外は特に障害はなく、書類を書き上げた彼らはトリガーを受け取った。

「でだ、入隊処理も片付いたことだし、お前たちに話さなきゃならないことがある」

「わかっています。クロヴィとのその後についてですよね」

あの日、和希の捨て身の作戦によって、クロヴィの戦闘員3人と事務員2人を捕らえ、本部に引き渡した。

彼らの拠点には本国との通信機もあり、それを使ってボーダー上層部はクロヴィと交渉を行おうとしていた。

「こっちは、捕虜と黒トリガーを引き換えに、不可侵条約や今後の技術交流を求めようとしたんだが、クロヴィ本国は一切それに応じなかった。」

「……!!」

「これもお前の想定の内か?和希」

「…想定はしていましたが、かなり悪いパターンですね」

国にとって貴重な資源であるはずの黒トリガーや、精鋭部隊を交渉の場に置いたのにも関わらず、彼らは応じなかった。

それが何を意味するか、その場の全員が察していた。

すなわち、宣戦布告。

「クロヴィはおそらく、交渉ではなく武力で、奪還に来る。そして、おそらく僕ら2人の粛清も、諦めてはいない」

これまでは、秘密裏に行われる、静かな戦争だった。

これからは、ボーダーに存在を知られてしまった以上、本格的に武力を行使する戦争になるだろう。

ほっとしたのもつかの間。彼らの新しい戦いが幕を開ける。

第1章 完


←14話  目次  16話→

コメント

タイトルとURLをコピーしました