漆黒の兄弟 11話 『ボーダー上層部』

漆黒の兄弟 11話【ワールドトリガー二次創作小説】 漫画

←10話  目次  12話→

スポンサーリンク

11話 『ボーダー上層部』

和希と望実は、林道の運転する車に乗り、ボーダー本部に向かっていた。

「和希、上層部と主に話すのはお前だが、緊張してるか?」

「…いえ、こういう交渉事は、向こうの世界にいた頃にも散々やっていたので。…ただ、」

「どうした?」

「いえ、…ただ、今回の交渉に自分と望実の命がかかっていると思うと、重責を感じずにはいられないなと思って」

林道は、そんな和希を見て、彼らの祖国での生活があまりにも過酷だったのだろうと想像する。

和希は、まだ高校生とは思えないくらいの思考力を持ち、最悪の状況まで常に計算にいれておくような危機管理能力を持っている。

望実も、和希の陰に隠れることが多いが、兵士としても優秀で、交渉事にも長けているように見える。

きっと、幼い頃から過酷な環境で命を懸けて、責任の大きい任務を数多くこなしてきたのだろう。

ここまで2人と関わってきて、親心のようなものも芽生えてきていた。

この戦いが終わったら、楽しくて平和な生活を送らせてやりたい。

林道は、そう思わずにはいられなかった。


ボーダー本部の会議室に到着すると、そこにはボーダーにおいて最高の権力を持つ、上層部が一堂に会していた。

城戸指令、忍田本部長をはじめとした本部の指揮官や、鬼怒田開発室長、根付メディア対策室長、唐沢営業部長が揃っており、その重い雰囲気に飲まれそうになる。

まずは林藤支部長が入室し、後について2人も中に入る。

「お疲れさん。待たせて悪いな」

林藤が声をかけると、一同は彼の後ろにいた和希と望実の存在に気付く。

痛々しく包帯を巻いている子供たちの存在に、忍田が怪訝な顔で林藤に問いかける。

「林藤、その子供たちは…?」

「こいつらは、今玉狛で保護している近界民だ。話があるそうだから、聞いてやってくれ」

「……!?」

一同が驚き言葉を失うなか、真っ先に鬼怒田が声を上げる。

「近界民だと!?何を考えてそいつらを連れてきた!」

「それは困りますね。未確認の近界民を匿っていたかと思えば、堂々と連れてくるなんて」

鬼怒田と根付が激しく批判するも、林藤は飄々とした態度で煙に巻く。

「まあまあ、こいつらはおれたちの敵じゃないよ。とにかく2人からの話を聞いてやってよ」

近界民に対する明らかな敵意に望実はたじろぐが、こうなることを予想していた和希は堂々と答弁を始めた。

「はじめまして。僕は織本和希、そしてこちらは弟の望実といいます。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」

和希が軽く一礼すると、望実も慌てて頭を下げる。

「本日は、皆様と交渉をするために、林藤支部長に無理を言って、この場を用意していただきました。必ず、あなた方の利益になる時間にすると、お約束しましょう」

和希は堂々と宣言をし、ボーダーの中で最高意思決定者であろう男、城戸正宗に真摯な目線を向けた。

その誠実な態度に、城戸は一言告げる。

「いいだろう。話したまえ」

「ありがとうございます」

和希が思い描いていた交渉の、第一段階が完了した。

まずは、相手を交渉のテーブルに着かせること。

そもそもこちらの話に耳を傾けないのであれば、どれほど良いプレゼンを行ったとしても、効果はない。

和希はこちらの世界に来てから、営業心理学や交渉術の本を多く読んでいた。

交渉をスムーズに行うために、最も重要なことは、「自分に価値があると思わせること」だ。

メラビアンの法則というものがある。それは、相手の第一印象を決める要素は、相手の身なりなどの視覚的な情報が5割、声質などの聴覚的な情報が4割を占め、話の内容自体は1割に過ぎないという学説だ。

和希だって、本当は怖くてたまらない。逃げ出したくてたまらない。少しでも気を抜くと、体が震えあがってしまいそうだ。

それでも堂々と胸を張り、よく通る声で話す。あえて「必ず」という表現で自信をアピールする。

全ては、自分たちの価値を高く見せるため。

そうすることで、「対等に交渉を行うに値する相手」であると思わせ、交渉のテーブルにつくことができた。

それら全てが、和希の計画通り。

僕が無理してこの態度を作っているのは、心を読める望実にはバレているだろうから、後で怒られるかもしれないな、と密かに考える。

しかし、まだ第一段階が完了したに過ぎない。

交渉の本番は、これからだ。

「結論から申し上げますと、僕たちがあなたがたに求めることは、僕達の命と権利の保障。僕達が提供することができるのは、三門市の脅威の排除です」

その言葉に反応したのは忍田だった。

「脅威…!?一体、何があるというんだ?」

(よし、うまく関心を引くことができた)

和希はボーダー上層部全員に向けて、堂々と事実を告げた。

「僕達の祖国であるクロヴィという国は、三門市に偵察部隊を送り、こちらの情報を集めています。彼らは民間人を装って生活しており、三門市内の学校や会社に潜入することであらゆる情報を集め、本国に報告をしています。また、彼らは武装しており、市内の至る所にレーダーに映らないステルストリオン兵を放ち、隠れて活動を行っています」

「何だって…!?」

和希が目配せをすると、望実は背負っていたリュックから、トリオン兵『キャット』を取り出し、机の上に置く。

忍田が席を立ち、上層部を代表してトリオン兵を確認する。

「これは…、見たことのないトリオン兵だ」

「おそらく今のボーダーのレーダーには映らないタイプかと存じますが、『ラッド』の時のようにそれを解析すれば、あなた方の組織力があれば排除は容易でしょう」

トリオン兵『キャット』の実物を見せることで、彼らの危機感を煽ることが、和希の目的だ。

そして、その後の忍田の言葉もシミュレーション通り。

「織本くん、君の祖国は、このトリオン兵を使って、一体何をしているんだ?このトリオン兵による目立った被害は今のところ確認されていない」

和希は、一拍間をおいて、はっきりと告げる。

「情報を集めている、それだけです」

「情報…!」

それだけか、と息を吐く者もいれば、緊迫した表情になった者もいる。

彼らの反応のひとつひとつを、絶対に見逃すな。それこそが、交渉成立のための手がかりになる。

人の心を動かすのは難しい。でも、情報があれば、考えを深くすれば。決してできないことではないんだ。

そう思って、自身の心を奮い立たせる。

「僕達の祖国は、『情報こそが最大の武器になる』という方針で、近隣のあらゆる国から情報を集めています。そして近年急速に力をつけたあなた方ボーダーは、クロヴィ偵察部隊の標的にされてしまっている。黒トリガーが送り込まれるほどに」

「黒トリガーだと…!?」

その言葉の重大さに、ボーダー上層部の面々が息を飲む。

「僕たちは、祖国を裏切った罪で、彼らから襲撃を受けました。死にかけたところを玉狛支部の方々が救ってくださったのですが、その際に確かに、黒トリガーを確認しました」

「それは間違いないぞ。助けに入った迅とレイジが、間違いなく黒トリガーだったと言っている」

林藤支部長の捕捉に軽く会釈をして、和希は再び正面を向き堂々と宣言する。

「しかし、僕達の要求を飲んでくださるのであれば、明日までにクロヴィ偵察部隊の身柄を拘束し、本部に差し出すことを約束しましょう」

「……!!」

確かな自信と共に放たれた言葉に、一同はどよめき、忍田が代表して疑問を告げる。

「黒トリガーを相手に、君たちならばそれが可能だというのか」

「はい。僕にはプランがあります」

和希は目をそらさず、真摯に彼らを見つめる。

そして、一呼吸を置いて、要求をまとめる。

「つまり、僕達はあなた方に、祖国クロヴィの特殊トリオン兵の情報、そしてクロヴィ偵察部隊の身柄を提供することをお約束します。さらに、戦力、技術、情報など、僕達の持つ全てをボーダーに提供します」

和希が真摯に見つめるのは、ボーダー最高司令官である、城戸の瞳。

もうわかっている。あなたさえ頷けば良いのだろう。

「その対価として、ボーダーが僕たちに危害を加えないことを約束してください。その保証として、僕たちをボーダー玉狛支部に入隊させてください」

彼らの願いに、最初に反応したのは忍田本部長であった。

「私は彼らの要求を飲むべきだと思う。林藤がそう言うのなら、この子たちは本当にこの街に敵対するつもりはないのだろう。何より、彼らを受け入れずして、彼らの祖国から街を守るのは難しい」

忍田の主張を受け、ボーダーの幹部全員が城戸司令を見て、判断をゆだねる。

「僕達は、本当にこの街が好きなんです。大好きなこの街を、あなた方と一緒に守りたい。どうか、お願いします!」

深々と頭を下げる和希を、城戸は冷酷な目が射抜く。

「君たちが、我々の敵ではないという保証はあるのか」

「玉狛支部の迅さんの未来視能力ならば、僕達が何かしようとすれば察知することができるはずです。それでも信頼できないのならば、しばらく監視をつけてもいい」

「…そんなことをしなくても、我々はお前たちを捕えて、強制的に従わせることもできる」

「…そうなれば、僕達は全力で抵抗しましょう。武力行使だけじゃない、社会的にもです。僕たちは近界民ですが、戸籍もある市民ですし、学校にも通っている。ボーダーとしても、民間人に少しでも悪い印象を持たれては困るのでは?」

和希は城戸の視線を正面から受け止め、しばらくの間2人は視線を交差させる。

林藤が最後の一押しとばかりに、一言告げる。

「おれは、この2人とは協力関係を築いたほうがいいと思うけどな~。ここ数日2人を見てて思ったんだが、これほど優秀なやつらもそうそういないぞ」

忍田と林藤の了承を得ることができた以上、残るは彼の答えを待つだけ。

和希のシミュレーションでは、彼が否と言う可能性も十分にあると考えていた。

彼の言葉を待つこの瞬間が、永遠にも長く感じられる。

そんな緊張感が高まるなか、一呼吸置いたあと、城戸は答える。

「わかった。クロヴィの部隊の身柄を引き渡すのと交換条件で、君たちが我々に協力的である限り、玉狛支部への入隊を承認し、我々ボーダーが君たち2人に危害を加えないことを約束しよう」

和希は、この言葉を引き出せたことに、安堵し息を吐くと、勢いよく頭を下げた。

「ありがとうございます!」

「よかったな。和希、望実」

林藤が彼の背中をポンと叩くと、緊張感と重圧による汗で、冬なのにぐっしょりと濡れていた。

(…たいしたもんだ)

内心ではこんなにも震えているのに、それを悟らせない技術。頭脳という武器で、困難な目標を達成する胆力。

彼の能力に改めて感心していると、忍田がひとつの提案をする。

「クロヴィからの遠征部隊には黒トリガーもいるという話だったが、どうやって捕まえるつもりなんだ?必要ならば、本部からも人員を出すが…」

その言葉に、和希は笑う。

「いいえ。僕たちと玉狛支部の皆さんとで、既に作戦を立ててあります。大人数での作戦となると、彼らに悟られる可能性も上がります。ここは、僕たちと玉狛支部の方々に任せてください」

ボーダー本部の承認は得た。作戦は十分に吟味した。

準備は整った。さあ、あとは彼らと戦うだけだ。


←10話  目次  12話→

コメント

タイトルとURLをコピーしました