漆黒の兄弟 1話 『織本和希』

漆黒の兄弟【ワールドトリガー二次創作小説】 漫画

『ワールドトリガー』の、長編二次創作小説です。

今回の主人公は、近界から来た2人の兄弟。

彼らが三門市で平和に暮らすために奮闘するお話です。

目次  2話→

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1話 『織本和希』

ある日、三門市に異世界からの門が開いた。

『近界民』と呼ばれる侵略者たちが、門付近の街を蹂躙。

街は恐怖に包まれた。

誰もが都市の壊滅は時間の問題だと思い始めた、その時。

界境防衛機関『ボーダー』を名乗る謎の一団が、『トリガー』と呼ばれる未知の技術で、近界民を撃退した。

これは、界境防衛機関『ボーダー』と、その宿敵、近界民の兄弟との物語である。


ここは、三門市立第一高校。

大学受験を目前にした3年B組では、数学の授業が行われていた。

「ーーでは、織本。この問題を解いてみろ」

「はい。--です」

「正解だ。さすがだな」

先生に指名された僕が難関大学の過去問を易々と解いてみせると、クラスメイトは小さく歓声を上げる。

僕が席に座ると先生が問題の解説をはじめ、また次の問題で別のクラスメイトが当てられる。

ごく一般的な机と椅子。よく晴れた冬の1日。授業が終わると、勉強が苦手なクラスメイトが僕を頼りに来る。

そんな平凡で平和な毎日が、僕にとっては特別だった。

僕の名前は織本和希。3年B組の生徒にして、近界から来た正真正銘の近界民。

近界民であることを隠して、一般人として暮らしている。

「ねぇ和希~、どうやって解くの?」

「あぁ、ゾエ。これはこの公式を使って…」

授業が終わり下校時間になると、隣の席の北添尋に声をかけられる。

彼は普段のほほんとしているが、さすがに今は大学入試を目前に控えているためか、困り顔で熱心に勉強しているみたいだ。

「うわぁ、すごいね。和希って、それだけ勉強できるのに、なんで進学校に行かなかったの?」

「僕なんか大したことないよ。うちは親がいなくて、弟と2人だけで暮らしていかなきゃいけないから、家から近いのが絶対条件なんだ。大学も近いところで受けるつもりだしね」

「そっかぁ。2人暮らしだと大変だよね」

親はいない。頼れる親戚もいない。普通ならば、その身元を怪しまれて然るべきだろう。

しかし、この三門市では、そのような境遇の子供は多くいる。

4年前の第1次大規模侵攻によって、家族を失った人々が多いという三門市の状況は、近界民である僕にとっては良い隠れ蓑だ。

北添としばらく話していると、同じクラスの王子に話かけられる。

「やぁ、和希。君ほどの頭脳があれば、きっとボーダーで活躍できると思うんだけど、僕の隊に来る気はないかな?」

王子は僕の頭脳を買ってくれていて、よくボーダーに誘ってくれる。

彼はボーダーB級部隊『王子隊』の隊長であり、技術や火力よりも作戦立案に重きを置いているらしい。

そんな熱烈な勧誘をしても、僕の返答はいつも決まっているのだけれど。

「何度も言っているでしょう?ボーダーに入る気はないって。家のことや今のバイトで手一杯だよ」

「でも、ボーダーで正隊員になれば、給料がもらえるじゃないか」

「正隊員になるまではタダ働きだし、僕は戦うのはいやだな」

「そうか。まぁいつでも待っているから、気が向いたら教えてよ」

勧誘話を一通り終えた王子がマイペースに教室を立ち去ると、隣にいた北添はため息をつく。

「王子はよっぽど和希を隊に入れたいんだねぇ…」

ふと何かを思い立ったように、北添は不思議そうな顔をした。

「でも、和希もかたくなに断るよね。お試しで入隊試験受けてみたらいいのに。それとも、ボーダーに入りたくない別の理由でもあるの?」

「別の理由…」

和希がボーダーに入らない理由は、もちろん和希自身が近界民だからだ。ボーダーは近界民をひとくくりに敵だとしているのに、彼らの本拠地に行くなんていうのは自殺行為だ。

和希は近界にいた頃、バリバリに軍事活動をしていたのだ。

一般人に紛れて入隊したところで、素人離れした動きでバレるに決まっている。

だが、ボーダー隊員である北添を前に、そんなことを言えるはずがない。

少し答えに窮していると、教室の入口から見知った声が聞こえた。

「おいゾエ!そろそろ行かねーと任務遅刻するぞ」

「あっカゲ!りょーかい、今行く」

声をかけたのは、北添のチームメイトである影浦だった。

そして影浦は和希に、彼の後ろにいる小さな人物を指し示した。

「あと、和希。お前の弟が来てんぞ」

「望実!」

「兄さん。帰りましょう」

影浦の後ろからひょっこりと顔を見せたのは、和希の弟である織本望実だった。

近界からこちらの世界へ一緒にやって来た、僕の最愛の弟。運命共同体。

和希と北添はすぐに荷物をまとめて教室を出て、待ち人と合流する。

影浦と北添はボーダー本部へ、和希と望実は自宅へ、それぞれが足を進めた。


高校から家までの帰り道、僕は望実とのんびり歩く。

僕たち兄弟は、クロヴィという国から来た正真正銘の近界民だ。

2年前、クロヴィから玄界の偵察任務を課され、三門市へやってきた。

そこで、祖国から解放されたいと切実に願っていた兄弟は、偵察任務中に自身の死亡を偽装して身を隠した。

そして今も、ボーダーからもクロヴィからも隠れて三門市で一般人として暮らしている。

「ごめんね。ちょっと待たせてしまったかな」

「いえ、来てすぐに影浦さんが気付いてくださって。優しい方ですよね、影浦さん」

「そうだね。カゲもゾエも王子も。みんな素敵な人たちだ。こちらの世界は本当に、良い人ばかりだね」

祖国であるクロヴィは、こんなにも温かくなかった。

クロヴィでは絶対王政が敷かれ、国王に忠実な両親の下で育った兄弟には、自由など全く無かった。

軍人である父親から強制され、兄弟は幼い頃から命を懸けて戦うことを強制された。

戦うことが怖くても、嫌でも。やめることも逃げ出すことも許されなかった。

軍事学校での同期や友人と呼べる人たちも、どこか殺伐としており、心休まる時がなかった。

だから、このような温かい環境で、気の合う友人と、気の向くままに楽しく話すのが、特別に幸せなことに思えるのだ。

僕は、この平和な世界が大好きだ。

だから。

「こんなにも平和な世界を、壊そうとするやつは、許せないね」

近界民出現のサイレンが鳴った警戒区域を、僕はじっと睨んで小さくつぶやいた。


夜になると僕たちは、毎日決まって自室の机にある機械を確認する。

「兄さん、今日はいますか」

「向こうの川原に数匹いるみたいだ」

この機械は、トリオン兵の位置を表示するレーダーだ。

僕たちの祖国であるクロヴィは「情報こそが力である」という方針で、隠密任務に力を入れている国家だ。

クロヴィが独自の技術で開発した隠密任務用のトリオン兵は、ボーダーの目も掻い潜り、夜の街を徘徊して情報を集めている。

そんな隠密と情報収集に特化したトリオン兵が三門市を徘徊していたら、国を裏切った僕らがいつ見つかるかわからない。

だから、祖国から逃げ出す際に遠征艇から盗んだレーダーで、隠密任務用トリオン兵の場所を確認し、夜の闇に紛れて討伐するのが僕たちの日課だ。


夜6時が、僕たちの活動開始の時刻だ。

「冬は日が落ちるのが早いね。さあ、行こう」

「「トリガー起動」」

僕たちが起動するのは、祖国にいた時からずっと使っている、クロヴィ製のトリガーだ。

上から下まで真っ黒な隠密任務用の服装になり、深く黒いフードを被って顔を隠す。

さあ、ここからは時間との勝負だ。

ボーダーに見つかってしまう前に、民間人にも気づかれることなく、トリオン兵を片付けなければならない。

隠密任務に長けた僕たちでも、その難易度は決して易しくはないけれど、これまで失敗したことはない。

失敗は即、死亡に繋がる。

川原に着くと、そこには5体の特殊トリオン兵が徘徊していた。

それは、隠密トリオン兵『キャット』。

クロヴィ独自の技術により作られた、小型の偵察用トリオン兵だ。

それ自体に戦闘能力はないが、通常のレーダーに映らず、得た情報を画面越しにリアルタイムで伝えることができる。

こんなトリオン兵にこの街をうろつかれたら、たまったもんじゃない。

周囲に人気がないことを確認して、望実に指示を出す。

「いつも通り、フードを深くかぶって、絶対に顔を見られないように気を付けて。背格好や戦い方のクセなども見られないことが望ましい。30秒以内に終わらせよう」

「はい、兄さん!」

和希のトリガーは、シンプルなブレード1本に、シールドが1枚、そして目くらましの爆弾だ。

ボーダーのトリガーに例えると、ブレードは弧月、爆弾はメテオラに近い。

時には目くらましで隠れつつ、突出したブレードの技術で相手を斬りつけ倒すのが、和希のスタイルだ。

そして、望実のトリガーは、拳銃2本とシールド1枚、目くらましの爆弾である。

ボーダーのトリガーに例えると、拳銃はハンドガン型アステロイドに近い。

ボーダーのトリガーのような多様性はないが、突出したトリオン量で威力のある弾丸や爆弾を放つことができる。

拳銃の早撃ち技術と、トリオン量による火力で相手を圧倒するのが望実の戦い方だ。

まず僕が5体の『キャット』の死角から近づき、ブレードで2体の『キャット』を斬りつける。

それに気づいた他3体がそちらを振り向く前に、望実が神速の射撃で目を打ち抜く。

予定通り5体の『キャット』を一瞬で仕留めることができた僕らは、『キャット』が活動停止したことを念入りに確認し、残骸をゴミ袋に入れて回収する。

「さあ、ボーダーや民間人に見つかる前に逃げるよ」

「はい、兄さん」

『キャット』と接敵してからわずか1分にも満たない。これなら合格点だろう。

仕事を終えた僕らは、換装を解いて足早に家に帰った。


その夜、僕は望実とリビングでくつろぎつつ、僕は今後のことを考えていた。

僕ら兄弟の役割分担は、実は明確だ。

僕は頭脳と技術担当、望実はサポートと戦闘担当。

ボーダーにもクロヴィにも見つからず、僕たち2人が一般人として平和に暮らすための策を考えるのは、僕の責任だ。

「今日もお疲れ様、望実」

「兄さんも、お疲れ様です。今日も彼らに見つからずに、うまくいきましたね」

おだやかに微笑んで話す望実とは対照的に、和希は深刻にこの先のことを考えていた。

クロヴィのデータベースでは死んだことになっている僕たち兄弟が、間違ってもトリオン兵に顔を見られるわけにはいかない。

その点、僕らが顔を隠して討伐すれば、クロヴィはそれをボーダーの仕業だと考えるだろう。

今の状況が続くならば、僕らの正体は簡単に明かされることはない。

「ただ、これから先もうまくいくとは限らない。こうして何者かが『キャット』を葬っている事実はクロヴィもわかっているから、何かしら対策を打ってくるはずだ。ボーダーだって、『近界民が民間人を装って市内に潜伏している』なんて状況に気づけば、全兵力をあげて排除しに来るだろうな…」

「兄さん…」

例えば、クロヴィのステルス技術が向上して、僕らの持つレーダーでも捉えられなくなったら。

例えば、2人が『キャット』を討伐している場面を、ボーダーや民間人に一度でも見られてしまったら。

そうなれば、2人はボーダーからもクロヴィからも追われることになり、一般人としての平穏な暮らしはできなくなるだろう。

そうなってしまう前に、何か対策を打たなければ。

そこまで考えたところで、望実が不安そうな顔をしていることに気づく。

そうだ。難しい顔をして考えこんでいたら、最愛の弟を不安にさせてしまう。

僕は、頭脳担当である前に、愛すべき弟を守るお兄ちゃんなんだから。

これまでの暗い思考を中断し、安心させるように笑みを浮かべる。

「大丈夫。いざという時のためのプランもある。それに、これまでのように慎重にやっていけば、僕らの正体が知られるようなことにはならないさ」

望実が僕に向けてくれる、信頼のまなざしが温かい。

「はい、きっと大丈夫です。兄さんのプランが失敗したことなんて、これまでありません!」

「あぁ。守っていこう。大好きなこの街を。この平和な日常を」

これは、近界から来た兄弟が、大好きな三門市を守る物語。

その境界線が交わる時は近い。

目次  2話→

コメント

  1. 匿名 より:

    そっこー迅にバレそーw
    応援しています更新頑張ってください

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